父に寄す




月の光が
青白い線を引いている夜
一人 ピタピタと靴の音を響かせて歩いた
明るく仄かな灯りの我が家を目指して

歩きながら夜空を仰いで見た

視界いっぱいに夜空が広がる
シネマスコープの様だ・・・

情熱を秘めた星が無数
かすかに燃えていた

私はこの星空の下を
どこまでも どこまでも
歩き続けたい衝動にかられた

あの星が北斗七星
こっちの星がさそり座かな?

父の星はどれだろう・・・

いつも私を見守ってくれているのかしら

お父さん・・・

とうとうお父さんと呼ばないうちに
貴方は私の前から消えておしまいになった
病の床でビールが飲みたいと駄々をこねた父
もう私のそばには帰ってこないの?

お父さん
職場での憂さはどこで晴らしたらいいの?
私の苦しみを貴方は知っていて?

もしも私がこの世にさようならをするとき
貴方はきっと迎えに来てくれるでしょうね
そして
貴方のそばの小さな星に私がなることを
許してくださるでしょうね

私は望んでいるのです

ほんのかすかな光でいい
ちっぽけな星でいい

貴方のとなりにいさせて下さい

おとなしくしています
お邪魔になるようなことは
決していたしませんから・・・

私は見たいのです
高いところからはるか下のほうの人間の世界を

ひと目でいい
世界を眺めて
人間の生活とはこういうものだ
世界はこうなっているのだということを
私は知りたいのです



1961年12月8日 筆



さみしさに 我耐えかねて 仰ぐ空
はるかかなたに 亡き父の顔





この詩を私が目にしたのは
中学1年生か2年生のころでした。
母方の祖父(母の父)は
この詩を私が目にした年と同じ
母が中学生の頃に
事故による脳内出血が原因で亡くなりました。

この詩をはじめて読んだとき
亡くなったお父さんを夜空の星にたとえて
自分をそのとなりにおいて欲しいと望んだ母を思うと
涙が流れました。

そして、この「父に寄す」をきっかけに
私は詩作するようになったのです。

この詩は母が学生時代に書いたものですが
詩にある「もしも私がこの世にさようならをするとき」が
今、現実のものとなりました。

母が亡くなる時、祖父は母を迎えに来たでしょうか。
夜ごと見上げる星空のどこかに
祖父と共に小さく輝く母の星が見つかるでしょうか・・・



素材:STAR DUST


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