嫌な女
嫌なやつっているものだ。
実は、このパルス療法は母にとって最後の治療だと先生に言われていた。
これをやって助けられなかった場合、最高の治療をした結果だと思ってほしいと言われたのだ。
だからこそ、私たちは母の状態に敏感だった。
話すこともできず、薬で眠らされているのだから、表情で訴えることも出来ないのだ。
だから私たちは、どんな些細なことでも知りたかったし、変化があれば看護婦や先生にも伝えたいと思った。
だが、その女(看護士)は「母はどうですか?」の一言を聞いただけで鼻で笑い「そういうのは私たちに聞かれてもどうしようもないから、先生に直接きいて?」と言う。
まぁ、ここまではヨシとしよう。
だが「昨日より呼吸は安定していますか?」とか「今日は変わりないですか?」などの簡単なものにもばかにしたような口調で「先生に聞いて」と言うので、それがなんだか「うるさいよ」と言わんばかりの態度に思え、私はムカッとして
「これが最後の治療だと言われてしまったので、そう言われていれば家族が必要以上に母のことを気遣ったり、気になったりするのは当然じゃないですか?」
と、それでも感情を抑え、なるべく穏やかに言ったが、その女は
「そうだよね。まぁ、この方みたいな患者さんは今まで何十人と見てきたけど、まず良くならないよね。だから難病指定なんだし。だいたいこの方みたいに他の臓器も悪いとなると、今まで悪いパーツでバランスとってやってきたわけだから、寝込むような病気になれば、もともと悪いパーツだっただけにガタガタだよね。」と言ったのだ。
そんなことが聞きたかったのではない。
ただ、母の様子が知りたかっただけだ。
昨日と変わりないのかどうか。
私たちのような素人目で見るものではない何かがわかるんじゃないかと思ったから。
父はもともと母命で、しかも精神的に強くない。
それに、今日は妹が熱を出してダウンしていて、父も私もある意味バランスを崩していた。
だから、このばか女の心無い言葉にかなり動揺してしまった。
考えたくない文字が脳裏に浮かんでくる。
『死』
『一生このまま』
今日もホテルに宿泊したが、父も私も、たとえ母が車椅子になっても・・・なんて考えていたわずかな希望さえ、言葉に出来なかった。