入院・その3



私は何のために今日お仕事を休んだのだろう。

母の病室が変わると聞いて、起き上がることさえ辛い母のために少しでも役に立ちたい。

そう思って会社の人たちに「また休むのか」と思われながら休みをもらったというのに、私が目覚めたのは15時。
15時から面会時間だというのにその時間に目が覚めてしまった。しかも、ガス漏れの点検のおじさんが来て、それで起きることになったのだから、これがなかったらもっともっと寝ていたかもしれない。

言い換えればそれだけ疲れてしまっているということでもある。

夕ご飯を食べて、掃除機をかけて、母の着替えや手ぬぐいや下着などを用意して、ゴミをまとめたり猫のトイレを掃除したり、汗だくになったのでシャワーも浴びて色々やったので、どうしても寝る時間が25時ごろになったのだが、それでも14時間も爆睡してしまったのだ。

大慌てで支度をして15時半ごろ家を出て、父が車で病院まで送ってくれたが、16時ごろに着いた。
母はすでに6階に移動していて「あ~あ・・・。私ってバカみたい。」と思いながら階段を上って病室にたどり着いた。

母には今日会社を休むと言っていなかったから、私を見てびっくりしていた。

「お前、会社はどうしたの!?」
「休んだんだ。今日病室が変わるって言うから手伝おうと思っていたんだけど、寝坊しちゃって結局役にたたなかったよ。ごめんね・・・・・・。」

母はそれには答えず
「それじゃあ、悪いけど車椅子持ってきてくれる?」と言うので、トイレに行きたいのかと思えば、吐きたいと言う。

慌てて車椅子を持って行くと

「ずっと吐きたかったけど、迷惑をかけたらいけないと思って我慢してたんだ。」

なんて言うので

「我慢なんかすることないじゃん!迷惑とか、そんなの気にすることないんだよ。そのためにこうして入院してるんだから。」

と言ったが、母は

「だって・・・・・・。」

と昨晩のことを話し始めた。

昨晩までは5階にいた母だったが、先生に『ちゃんと食べなきゃダメ!』と言われたので、夕飯は私が食べさせたのだ。

夕飯と言っても、出てきたものは『卵スープ』「オレンジJ(ジュース?)』『ジョア(プレーン)』の三つで、スープとジュースはマグカップ一杯程度の微々たる食事だった。

母はジョアは半分以上残したのだが、それ以外はほとんどすべて食べて寝かしつけた。だが、今朝方気持ち悪くなり、看護婦を呼んで吐きに行ったらしい。
トイレに車椅子で連れて行ってもらって、いざ吐き始めると、看護婦は無言のまま去って行ったと言う。

母は苦しみながら一人で吐き、その後トイレを済まして再び看護婦を呼ぶと、去って行った看護婦が戻ってきて「なにを吐きました?」と聞いたと言うのだ。

だから、母は自分が厄介者だと思われたのだと感じたし、好きで苦しんでいるわけではないのに、助けてもらいたくてこうして入院しているというのに、少なからず、この扱いに傷ついたのだろう。
それで、吐きたいのもぐっと我慢していたのだ。

私はムカムカして、文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、母が言わないで欲しいというので仕方なく我慢することにした。
母は病院に残って世話をされなければならないのだから、もしも文句を言って、その後、意地悪でもされたらたまらない。

それにしても理不尽な話しである。
『白衣の天使』などと看護婦を言うけれど、そんな形容詞はお世辞にも使えないヤツがいるものだ。

その後、担当医師のK先生がやってきて、母は今日から2~3日絶食ということになり、それから「ちょっと・・・」と私だけが呼ばれた。

K先生は一通り母を中心とした家族構成や母の身内の病歴などを私に聞いた後で「実は・・・」と母の薬害について話し始めた。

メルカゾールという名の甲状腺の薬を母は服用しており、今回の母の体調不良はこの薬の副作用のためだろうとのことで、入院の運びとなったのだが、この薬はもともと副作用があることが大前提で使われるもので、服用する甲状腺の薬は大まかにわけると二種類あり、メルカゾールはそのひとつなわけだ。
それで、今までにもこの副作用のために入院する患者はいたが、問題はここからで、実は母の入院している病院では、メルカゾールの副作用で入院することになった患者が母を含めて連続3人目ということだった。

3人も連続して入院患者がいた、というのは今までになく、もしかしたら製造過程が変わったとか、何らかの問題があるのかもしれないから、現在製造会社に問い合わせしている、と言った。

しかも、母は喉が白くなっていて、これは『カビ』の一種だろうとのことだったが、まだ検査結果は出ていないものの、もしもこれが『カビ』だったとしても、母のような状態でカビが生えてしまうということも、これまでのケースではなかったと言う。

ただ、もうひとつ、大きな問題なのは、現在母が入院している総合病院は母がこれまでにかかっていた病院ではないということ。

母は祖父母の代からSクリニックという個人病院にかかっていて(私たち家族全員のかかりつけ医)、母が今、入院している総合病院には、これまでの母の体調を知る手がかりがなにもない。
母は肝機能が低下しているが、メルカゾールでも肝臓は悪くなるし、母はもともと肝臓が悪かったので、メルカゾールのせいで現在の数値が悪いのか、それともメルカゾールが原因ではないのか、それすら判断できない状況にあるのだ。

母はさらに詳しい検査が必要なようで、回復するのはまだまだ時間がかかりそうな気配だ。

それに、もともと母は高血圧症・狭心症・高脂血症があり、母方の家系は私たち姉妹も含め内臓下垂でもあるし(胃下垂というのは聞いたことがあると思うが、胃下垂は胃が正常な人と比べて下がった位置にある人のことを言うのだが、内蔵下垂は内臓すべてが全体的に下がった位置にある人のことを言う)、20代前半の頃は腎臓がひとつまったく機能していなかったために、レントゲンに映らなかったことがあり、ひとつだけが二つ分の働きをしていて、もう片方の腎臓が肥大していた、ということもあって、その後の治療でこれは治ったものの、おそらく腎臓だってあまりいい方ではないのだ。

そうそう。
母方の家系は糖尿病もある。
おばあちゃんは心筋梗塞・糖尿病・高血圧症・高脂血症で、糖尿病は酷くて足は腐ってしまったし、目は白内障になったし、胃痙攣なんかもしょっちゅうで、当然母だって体質はそっくりなはずだ。

私は今のところ胃痙攣以外の似たところはないが、きっといずれは血圧だって高くなるに違いない。

病気って怖い。
薬害も怖いけれど、結局は何かのキッカケで自分のもともと持っている弱い箇所がすべてに影響を及ぼしてしまうのだ。

いかに日頃から健康管理をしていくかが大切なのだ。

母は今年61歳になる。
毎週水曜日にはバトミントンを数時間楽しみ、一ヶ月に何回も遊びに出かけ、1~2ヶ月に一回は旅行にも行き、とにかくじっとしていないような元気な人間だが、こうして入院するようなことになり、入院しても症状は一向に改善せず、医者も首をひねりながら治療にあたり、まだ先がまるで見えないような状態だ。

一進一退どころではない。
24時間点滴をしっぱなしの状態で、現状維持が続いているだけなのだから。

とにかく1日も早く元気になって欲しい。
回復して欲しい。

わがままで自分勝手で気丈な母に戻って欲しい。


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